忘れた頃に発売された乙嫁語りの新刊ですが、本当に丁寧でドラマとしても漫画としてもハイクオリティ。語りたいことがいっぱいありますね。
10巻は主に2つのパートに別れてます。
一つはカルルクがアゼル達のところで男修行をするパートとスミスとアリと国際情勢のパートです。
作者の森薫さんのバランス感覚というか、ドラマの作劇が凄いと思うのは全てが生生しくも、漫画としての抽象度が統一されていて生臭さを感じないところです。
10巻前半はカルルクがアゼル達のとこで弓や鷹狩りを習うパートです。かつてはアミルを取り返そうとして戦争になった経緯を踏まえて読むと本当に面白い。
カルルクが一人前の男になろうとして、男集団の中で暮らすうちにだんだん打ち解けてきて、結婚や金、親戚問題という男同士でしか本音を言えないような話をするようになるシーンは本当に素晴らしいと思います。
妹の婿、という立場だけれども圧倒的に若輩なので子供扱いされていたのが、少しずつ仲間として認められていく過程が超丁寧に描かれているからです。
どうしてあれだけ揉めたのか、という事の背景がカルルクにもわかってくるのです。
いわゆる大人の世界の入り口ですね。
一時大ブームになったセカイ系が自分の身の回りの関係性がそのまま世界に直結するという子供チックな超絶単純思考の産物だとすれば、関係性を明らかにして理解する事が大人の視点だと言えるでしょう。
そして、結婚についても現代的な恋愛至上主義ではなく、一族が生き延びていく為の手段として語られています。日本のお見合いに持参金と相互扶助義務が付いてきた感覚ですね。
ぶっちゃけ私のような恋愛市場で価値の低い人間にはこっちの方が都合がよかったかもしれません(笑)
そして、スミス編ではついに世界情勢についてあからさまに触れられます。
戦争が遊牧民の世界にも破壊的な影響を与える事は間違いありません。アミル達の世界は早晩滅びる定め。
そして、驚いたのが3巻でスミスを振った(?)と思われたタラスが再登場します。
しかも現在の夫に連れられて来たとの事。
先ほどの一族の存続の理屈から言えば、タラスがスミスを忘れられなくて追いかけてくるというのは横紙破りも甚だしいのですが、実際は夫がタラスをかわいそうに思ってのことでした。
つまり、一族の理屈と恋愛の要素はどちらか一方だけが絶対的なルールではなく、相互にまじりあっているという事です。
森薫さんのこのバランス感覚は凄いとしか言えないですね。
そして、11巻以降も気長に待ちたいと思います。
目次
2018年2月の気になった作品
あれよ星屑7巻
戦後漫画の大傑作が遂に完結です。
川島には完璧に死相が出ていて、いったいどんな最後を迎えるのかと思っていましたが、ついに罪悪感の原因となった分隊全滅のエピソードが語られ、見殺しにした上官が共に清算すべき過去の象徴として登場します。
無駄死にさせた部下全員の名前を石ころ書いて飲み込むのはあまりにもキツい。
とにかく、全編凄まじいとしか言えない作品ですが、最後に生きていく事を選んだ黒田の明るさが救いとなっていて読後感は清々しいです。
人形の国2巻
順当に展開が進んでおり、いい意味でも悪い意味でも特に驚く流れは無し。おそらくは作品世界の環境を描くためにキャラクターを配置するのではなく、人間同士の物語を描く方にシフトしたせいかもしれません。
ブラムもシドニアも敵が理解不能だから緊迫感があったのですが、本作はちょっとインパクト弱いよな、と感じます。もちろんクオリティは高いのですけれども。
もしかしたらアニメ化を狙っているのかもしれませんね。
ハンターハンター35巻
登場人物が一気に増えて複数場面の転換が半端ないです。さすがに週刊連載出来るクオリティではないので長期の休載と集中連載が続くのは仕方ないですね。
面白いといえば面白いのですが、超能力&サスペンスよりも正直新大陸での冒険の方が楽しみです。何年後にたどり着くのかさっぱりですけど。
それと、念能力の元ネタは間違いなく気功や密教にあると確信しているのですが、記事にしようとすると時間が半端なくとられるのでまだ手を付けていません。
いつか自分の頭を整理する意味でも記事にしたいですね。
阿吽7巻
遂に空海が恵果和上と出会って灌頂を受けます。中国編の見せ場ですね。
相互理解の描写や曼荼羅世界のイラストはおかざき真里さんの才能が爆発している凄いシーンです。
今月は空海を主人公にした夢枕獏の小説の映画が公開されます。
映画は2時間の尺に収める為、大分原作から離れているようですが、非常に楽しみです。
長安のセットだけでも一見の価値はあるでしょう。
氷室の天地11巻
良くも悪くも相変わらずの作品で安定した面白さがあります。
初代のフェイトを知っている人は高確率で古参オタクだったりしますから、オタク教養のパロディネタ連発にも耐えられます(笑)
ネタを解説しろと言われたら1コマ1コマ触れなくてはいけないくらいの密度です。
最近は偉人ネタが多め。作中で一切パロディの解説をしなくても良い、というのは凄いですよね。
不死者のoh 2巻
オーバーロードのパロディ全振りなのですが、原作やDVDに付属したいくつかのドラマCDとは違ってキャラクターの内在的論理を的確につかんでいるので快適に読めます。
確かに画力とか、内輪ウケとか色々と注文付けたいところはありますが、まずは読んでいて「彼はこんな事いいそうにないよね」的な違和感がないというのがパロディ漫画では重要かと。
少女終末旅行 6巻
私は本来単行本派なのですが、先が気になって連載を追ってしまいました。
6巻が最終巻となり、ついに都市の頂上にたどり着く2人、そして・・・。
未読の人はぐっとこらえて3月に発売される最終巻を待ってください。
ぶっちゃけケッテンクラートが修理不能になって捨てるシーンは超感情移入してしまいました。荷物を捨て本を燃やしながら徒歩で頂上を目指す、先の見えない不安と疲労から少しずつ哲学的な思想が入り込んでくる。
言語化出来ない感覚を読み手に与える本作は間違いなく文学です。今、漫画程に人の心を動かすメディアってあるのか?と思いますね。
ブログには何度も書きましたが、出版社が用意したキレイな庭と揶揄されるまでに落ちぶれた文学クラスタは猛省して欲しい。
今月はこんなところですね。
それと別記事にしたファイブスター物語はこちら
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