銃夢の映画化が報道されたのは10年以上前の事ですが、本当に映画化されたので見てきました。原作の良さと1本の映画としてのクオリティの両方をギリギリのバランスでとった凄い作品だと思いますよ。おすすめ!
正直なところ、映画のトレイラーがアップされるまで、ハリウッドにありがちな著作権確保案件だと思っていたので本当にプロジェクトが動いてよかった。
原作を何度も読み返した程、好きな作品です。
全9巻の原作が完結した後、何年もたってから最終話の前でエピソードが分岐してラストオーダーという新シリーズが始まり、さらに過去編があります。
このように銃夢の世界は広がっているのですが、個人的には作者の初期衝動が詰まった9巻にまとまった銃夢が一番好きですね。
そんな無印銃夢好きがアリータを見て感じたところをつらつらと書いていきます。
積極的にネタバレするつもりはありませんが、未見の人は注意して下さい。
アリータ: バトル・エンジェルと銃夢の違い
一言で言ってしまえば、映画版(アリータ)は分かりやすく王道になっています。
銃夢が持っていたドロドロとした情念は消し去られているのです。
例えば、原作のマカクが映画ではグリシュカという単なるノヴァの手下になっていて、虐げられ無視された弱者の悲哀が無くなっています。
イドの年齢が高く設定されており、まともな大人として描かれています。
とてもじゃないですが、夜な夜なマンハンティングを楽しんだり、完全管理社会ザレムから追放される程の異常者とは呼べません。
しかも映画のイドにはチレンという奥さんまでいたのですが、とある理由で娘が殺されてから事実上の離婚をしています。
子供が病気だから一家そろってザレムを追放されたように描写されていますね。
体が不自由な娘を守れなかったイドが子供(アリータ)を拾って、娘に与えるはずだったボディを付けてあげているのを見たチレンの複雑な心境たるや・・・!
この改変だけで、アリータが銃夢の表面だけをなぞった作品ではない、というのが分かります。
年齢が高く設定されている事もあり、イドは亡くした娘をアリータに重ねているのです。
しかし、アリータの方も記憶を失っているせいで従順な娘として目覚めましたが、次第に自意識が高まります。
ボーイフレンドが出来て自分の世界を持つようになってイドから独立するのです。
そういう意味でアリータはサイバーパンクのガワをまとった少女の自立の物語だといえます。バトルやSF要素は飾りですね。
また、ノヴァ教授がザレムを追放されておらず、天空都市(ザレム)から暇つぶし的にくず鉄街にちょっかいをかけている分かりやすい悪人として設定されていました。
どうやらアリータは300年前に火星からノヴァ教授を倒すために地球に降りてきた部隊の生き残りらしいですよ。
1本の映画として9巻に渡る物語を描くことは不可能なので、このやり方が最良だと思いますね。
アリータの映像美と不気味の谷を越えるロボット
まず映像に関しては文句なしです。
屑鉄街のサイバーパンクっぷりは実に見事で、原作の空気をばっちり再現しています。
サイボーグたちもみんなディティールアップされていて、原作に比べて相当クオリティが高いです(失礼)。
特にザパンの背中を見た時はカッケー!!って思いましたね。あのメタリックなボディに彫刻入りのパーツが付いた背面は凄いです。
もちろんザパンは卑劣な悪役なんですが、ボディはかなり良かったし、ブレードで顔面を削ぎ落されるシーンも見ごたえありましたw
マカクのグラインドブレードもマトリックス的なスローアクションと相性がばっちり。
モーターボールもかなり良かったです。モータボーラーのディティールが怪物的かつ暴力的になっていて迫力ありました。
ただ、ジャシュガンが顔見世程度で、エピソードに絡まなかったのは残念。
ジャシュガンとガリィのエピソードは原作でも屈指のクオリティで、自己超越とか「道」の追及というラストオーダーにつながる原点だと思います。
アリータの目
また映像の中でもっとも重要なのがアリータの目が大きい、という点です。
顔のバランスがアニメ寄りなんです。
でも皮膚はアップで毛穴まで描かれていて、凄くアンバランス・・・かと思いきや不思議とそういうものだと慣れてしまいます。
しかも目が大きいせいで表情が凄く大きくなるせいか、生身の役者と比べてアリータの心理が伝わりやすくなるんです。
以前から日本の漫画アニメは印象派だと言われていましたが、まさにその通りだと再確認できました。
ロボットを人間に似せると、なまじパーツが同じだけに不気味の谷が出来てしまうのですが、アニメに寄せると解決できるようです。
多分、AI入りのロボットが実用化されたら、人間と区別するためアニメ顔スタイルが採用されるんじゃないか、と思います。
実用例として良く取り上げられるペッパー君にも表情がありますが、何かイラっとするんですよね。
宇宙服みたいなのっぺりしたロボットに雑用してもらうより、アニメ顔少女の方が個人的には好みですね。20年後にはフィギュアっぽいアンドロイドが出来るかも。
唯一残念な点
最後に・・・これは原作ファンのわがままなんですが、一つだけ。
なんで意味もなくノヴァ教授がメガネ外したの?
銃夢でノヴァ教授がトレードマークの眼鏡を外したシーンは一度だけ。
業の克服という研究から目が覚めて、歩みを止めたファウスト博士のように満足した、あの時だけです。
あの悪霊に取りつかれた邪悪なアインシュタインのようなノヴァ博士が我に返る超凄いシーンです。
9巻のあのシーンは心震えました。
映画のノヴァ博士は単にアリータのロストテクノロジーで作られた高性能な心臓が欲しいだけの俗物になっていて、人類のカルマの克服というテーマは全く出てきません。
まあ、原作でも結論が出ていないテーマなので映画の中で扱うには大きすぎるからでしょうね。
ただノヴァ博士はもうちょっと底知れない感じを出してほしかったなあ~。
最後に
もしかしたらこの作品は1本だけで終わりかも。
続きがありそうに見えますが、あの先の話をするとなると少女の自立の次の王道テーマって無限にあるんですよ。
だから続きは難しい。
そうなると結局SFとかサイバーパンクだけになってしまい、オタク好みでマニア以外は見ない作品が出来上がってしまう。
どうなんだろうな~見たいような見たくないような。
もっとも、本作に限って言えば原作未読でも十分楽しめますし、後から原作を読めば二度おいしいです。原作ファンも楽しめる作品なので、重ねておすすめします!
コメント
ノヴァ博士の眼鏡を外すならエンドロールにメイキング映像とかつけて、その中で外すとかでいいのにと思いました。