短編集だった14巻が発売されたのが昨年9月。
新刊は4か月ぶりですね。
これくらいのペースとこれくらいの読みでのあるボリュームなら大歓迎!
15巻はようやく物語が動き出します。
悪文悪展開だったパンハイマ編とはうって変わって、
結構なボリュームですけど、ぐいぐい読ませてくれます。
なんというか露悪的な趣味の悪さや、壊滅的なネーミングセンス、
冒頭のアフィリズムから伺える詩想の乏しさ、寒いユーモアは相変わらずなのですが、
気になって気になって気になって仕方がなかったあの言い回しは
出てきませんでした。
「これは○○に過ぎる!」
2chの掲示板で散々突っ込まれて、直したのかもしれません(笑)
ここまで好き勝手文句いってますけど、
これだけ直ぐに欠点が指摘できる作家なのに新刊を発売日に買ってしまうあたり、
モダンはやっぱり期待しているんです。
さて、15巻の感想としては嵐の予感といったところ。
いきなりひきつけられたのは、冒頭!
聖書のワンシーンを換骨奪胎しています。
明らかにゴルゴダの丘でキリストが十字架にかけられるシーンです。
キリストの脇腹に槍を刺したローマの100人隊長ロンギヌスらしき人物まで登場。
そしてナグハマディ写本のユダの福音書をモチーフにした過去シーン。
ユダの福音書について語りだすと止まらなくなってしまうので
止めておきますが、ぶっちゃけ支配の道具として聖書を編集した人にとって、
不都合な内容がかいてあります。
特に重要な点はユダの扱いです。
ユダは弟子の中でもっとも優れたるもので、
師(キリスト)の命令で裏切ったと書かれているのです。
そして神についての扱いも全然違います。
GODが云々、というのではなく、
祈りの目的は自分の内なる神と外の神を合一されること、
なんて書いてあります。
明らかに、ブラフマンとアートマンの合一。ウパニシャット哲学、
バラモン教の影響が色濃いのです。
カソリックのキリスト教とは違いますよね。
そして聖書ではユダは首をくくった事になっていますが、され竜では違います。
光の環を持って生き延びたようです。
これが一体何を意味するのでしょう!
今回のエピソードは失敗国家の騒乱ですが、
これに冒頭のシーンがどうつながってくるのか?
これは楽しみに過ぎる(笑)
あらすじとネタバレ
内容についてざっとまとめてしまうと、こんな感じ。
ハオルという王政の発展途上国では王族が富を集約し過ぎた上に、
国民教育を施さなかった為、不満がたまりまくって、
ついには反乱がおきてしまいます。
それまでは仮初の治安が維持されていましたが、
内乱によって国はズタボロ。
みんな揃ってより不幸な状態に突入します。
唯一の生き残りのアラヤ王女は拷問を受けながらも、
デナーリオら忠臣たちと生き延びて、
外国を転々として政権奪還への活動をしています。
このアラヤ王女を狙うのがクーデターを起こした面々。
しかもクーデター派は2つに分かれていて、それぞれ仲が悪い。
彼らが既に実権のないアラヤ王女を狙うのはケジメではなく、
金の為です。
何故なら王族は国内から搾取した膨大な財産を国外に移していたのです。
その為、生き残りの王女をとらえて資産を手に入れなければ、
仮初の政権も金欠で崩壊です。
クーデター派は王女を狙い、王女は王家に伝わる宙界の瞳の秘密をダシに
ガユス達の事務所に護衛を依頼します。
この争いにエリダナの他の事務所までも関わってくるどころか、
誰によってか封印を解かれ、乱入してきたモルディーンの12翼将のアザルリまで乱入。
いつものようにヨーカーンは思わせぶりな事を言うし、
アザルリを捕縛する為、シザリオスとウフクスまで登場!
その上、アラヤ王女を護衛する者たちの中には、
デナーリオを個人的に愛するがゆえに、王女を殺してしまおうという内通者がいるのです。
しかも2人(以上)。
冒頭の過去シーンの聖者が虹色の瞳だったり、宙界の瞳が複数あったり、
光の環(宙界の瞳を集めたものか?)がどうしたとか、もう伏線だらけ!
こんな具合に凄まじく込み入った状態ですが、
キッチリ状況把握出来るので難なく読めます。
これは浅井サボさんの小説力のおかげでしょう。
エログロな展開にしたり、下種な愚民を描写するのはもうお腹いっぱいです。
モダンが思うに浅井ラボさんの持ち味って、デビルマン的な構造化だと思うのです。
デビルマンは人間とデーモンに差別の構造を仮託して、
人のサガを抉り出しました。
恐怖がどうとか、集団心理がどうとか、差別どうとか100の文言を連ねるよりも、
デビルマンを読んだ方が強く伝わります。
本物の文学だから!
そして、個人的には最高傑作だと思うのが、され竜の2巻のレメディウス編。
一人の若き天才が発展途上国の中の巨大な社会構造を
ひっくり返そうとして何もかも失ってしまう、挫折の物語。
この巻は出番は少ないけど、
テーマ的には明らかにレメディウスとモルディーンが主役ですよね!
そして、その理想が救おうとしている者たちの「救われなさ」。やるせない・・・!
初めて読んだときは大ショックを受けて、即座に続きを求めて書店を探したくらいです。
今回15巻の冒頭を読んで、
もしかしたら2巻の時のような感動が得られるかもしれないと期待しています。
単に誰が裏切り者なんだ!?とか、過去の謎解きとか、
そういったサスペンス的な面白さだけでなく、もっと大きな絵を見せてほしいです。
このペースなら16巻は初夏には出てくれると思うですが・・・・どうでしょう!?
追記
予想だけど、リカリオは女の子。
裏切り者はアラヤ王女自身。ショックで二重人格者になったとか?
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